東京地方裁判所 平成12年(ワ)1686号 判決
原告 台東自動車販売有限会社
右代表者代表取締役 伊石岩夫
右訴訟代理人弁護士 塩津務
被告 吉井勇
右訴訟代理人弁護士 土屋耕太郎
主文
一 被告は、原告に対し、五二万八〇二五円とこれに対する平成一〇年九月一〇日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告の各負担とする。
四 この判決は一項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、一〇五万六〇五〇円とこれに対する平成一〇年九月一〇日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 本件は、自動車販売店である原告が、被告は借入意思もないのに自動車ローンの申込みをしたため、その取次をした原告が信販会社に対するローン残金の支払を余儀なくされたとして、被告に対して、支払った金員の返還を求めている事件である。
二 前提となる事実
1 原告は、自動車販売を業とし、自動車ローンの代理店をしているところ、清川明彦(以下「清川」という。)の依頼により、株式会社オリエントコーポレーション(以下「オリコ」という。)に対して、ローン額二三〇万円の自動車ローンの手続をし、平成七年三月一四日、右ローンが実行された(争いがない。以下「本件自動車ローン」という。)。
2 本件自動車ローンは、被告が原告からボンゴワゴン車(以下「本件自動車」という。)を二八二万五一二〇円で購入する代金のうち、二三〇万円をオリコから借入れることを内容とするものであった(乙五)。
3 被告は、本件自動車ローンの契約申込人となり、オリコは、被告に契約意思の確認をした(争いがない。)。
4 原告は、被告が本件自動車ローンの責任を否定したため、オリコから本件自動車ローンの残額一〇五万六〇五〇円を請求され、平成一〇年九月九日、オリコに右金額を支払った(争いがない。)。
三 争点
1 被告は、原告がオリコに支払った金員を原告に支払う義務があるか。
(原告の主張)
本件自動車ローンは借主名義になった被告が支払うべきものであるが、原告は、本件自動車ローンにかかわったものとして、被告に代わって一〇五万六〇五〇円を弁済したので、第三者の弁済による求償権を取得した。そうでないとしても、被告は、借入意思がないのにこれを隠して本件自動車ローンの申込みをした不法行為に基づき原告に損害を与えたものである。そうでないとしても、被告は、オリコに対して一〇五万六〇五〇円を支払う義務があるところ、原告が弁済したことにより同額の不当利得を得たものである。
(被告の主張)
原告の主張は争う。原告は、清川から依頼されて、実際には売っていない自動車を売ったことにし、本件自動車ローンの手続をしたものであり、ローン残額をオリコに支払ったのは、架空売買の売主名義人になったためである。原告は、清川に対して請求すべきであり、被告に請求するのは筋違いである。
2 被告に支払義務がある場合、その支払額はいくらか。
(被告の主張)
本件は、原告と被告との間で、本件自動車の売買契約は存在しないにもかかわらず、本件自動車ローンの契約申込みを行ったものであるが、被告は、アマチュア無線仲間のクラブを通じて、株式会社マツダアンフィニ関東(以下「マツダ関東」という。)に勤務していた清川と知り合ったが、同人から「車を買ってくれる人がいるが、車庫が見つかっていないので、いったん名義を貸してほしい。車を買ってくれる人がお金を用意できるまである程度時間がかかるので、とりあえずローンを組んでもらうが、私の責任で車を買ってくれる人からお金をもらい、ローンは一括して支払う」旨の虚偽の事実を申し向けられて申込名義人になったものである。原告も、清川から頼まれて売主名義人になったものであり、オリコから出た二三〇万円を清川に渡しているのであるが、原告のこのような行為がなかったなら、損害は発生しなかったものであり、このような原告が被告にオリコに支払った金員の全額を請求することは許されず、信義則上、原告の請求は、五割以下に制限されるべきである。
(原告の主張)
被告の主張は争う。
第三判断
一 前記前提となる事実に証拠(甲二、五、八、乙一、二、五、六、九、一〇)を総合すると、マツダ関東に勤務していた清川は、自己に課せられたノルマの達成と自らの約一〇〇〇万円にも上る借金の返済資金調達を目的として、従前からの知人らに様々な口実を使って、一時的に自動車の買主になったことにして自動車ローンの借主名義人になってもらい、信販会社数社に自動車ローンを申し込み、ローン名下に金員を取得していたこと、本件も、清川がアマチュア無線を通じて知り合った被告に「車を買ってくれる人がいるが、車庫が見つかっていないので、いったん名義を貸してほしい。車を買ってくれる人がお金を用意できるまである程度時間がかかるので、とりあえずローンを組んでもらうが、私の責任で車を買ってくれる人からお金をもらい、ローンは一括して支払う」旨の虚偽の事実を申し向けたため、これを信じた被告が名義上本件自動車の買主、本件自動車ローンの借主になることを承諾し、契約書に署名し、オリコからの意思確認にも応えていたこと、被告は、本件以外にも清川から頼まれて、他の自動車販売会社との売買契約の買主名義人となったこと、原告は、自動車販売を業とする会社であるが、販売する自動車について顧客から依頼があれば、信販会社にローンの取次をしており、オリコとは昭和五七年八月ころから取引をしていること、原告代表者は、平成七年三月ころ、清川から「マツダのお客様に車を販売したいが、マツダの会社のローンは高く、お客様に少しでもサービスをしたいから、安い利息でローンを組ませてくれないか」と頼まれたため、これを引き受け、原告が被告に本件自動車を売ったことにして、本件自動車ローンの手続をしたこと、原告は、清川から頼まれ、本件以外にも七名分について、実際には売買をしていないにもかかわらず自動車ローンを取り次いでいるが、ローンが実行されて信販会社から一件当たり三万数千円から六万数千円(本件の場合は四万三三七八円)の手数料の支払を受けていたこと、以上の事実が認められる。
二 右認定したところによると、本件は、要するに原告も被告も、清川に言葉巧みに騙され、自動車ローンの借主名義になったり、自動車ローンの取次をしたりしたものと認められる。そうして、いかに騙されたとはいえ、被告は、実際には返済の意思がないにもかかわらず、本件自動車ローンの借主となり、その旨をオリコに対して意思表示し、オリコに金員を出損させたものであるから、少なくともオリコに対する関係では不法行為になるし、オリコから本件自動車ローンの契約上の責任を追及された場合には、信義則上その支払義務を免れ得ない立場にあったといえる。
しかるところ、原告がオリコからの請求により、本件自動車ローンの残額を支払ったことは当事者間に争いがないから、原告は、被告に対してこれについての求償権を取得したものと一応いうことができる。
三 しかし、ひるがえって本件を勘案すると、前記のとおり、本件自動車ローンは、原告と被告がいずれも清川に騙されて、実際には本件自動車の売買契約は存在しなかったにもかかわらず、被告が買主、原告が売主となった形をとり、結果として、オリコを騙してローン名下に金員を支出させたものであり、オリコに対する関係では、原告と被告は、共同して不法行為を行ったものと評価すべきものである。原告は、本件も含めれば八件も同様な取次をしているのであり、そのたびごとに手数料を取得しているのであるから、その責任は決して小さなものではない。
このようなことにかんがみると、原告がオリコに支払った金員の全額を被告に求償するのは信義則上許されないというべきであり、公平の見地から過失相殺の法理を類推して、求償し得る額をその五割に制限するのが相当である。
四 以上によれば、原告の本訴請求は、被告に対し、五二万八〇二五円とこれに対する平成一〇年九月一〇日(オリコに対する弁済の翌日)から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余は失当というべきである。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 大橋弘)